退職金を支払って、法人税を減らせてよかったぁ~!
と、思いきや
それ節税出来ていませんよ。
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えっ!?
このような話は以外に少なくないようです。
企業では、利益が多ければ多いほど、支払う法人税も増えていきます。
そこで、法人税を節税するために、様々な方法を駆使して損金(経費)を増やし、結果として利益が減ることで、法人税の支払いを減らすということはスタンダードに行われています。
その1つの方法として、退職金の支払いがあります。
退職金も一定の金額までは損金として認めることができるため、法人税を減らすことができます。
しかし、役員の退職金と従業員の退職金では、税務上の取り扱いが異なっています。
損金にできる時期や退職金の金額などによる違い、また、従業員が役員に昇格した場合や、使用人兼務役員が専務取締役になった場合など、一言で退職金と言っても、各企業によって様々な状況が考えられます。
場合によっては、損金に認められないケースもあります。
今回は、退職金がどのような場合に損金になり、どのような場合では損金にならないのかを解説したいと思います。
2019年7月に法人向け生命保険の保険料に関する税制改正が行われました。
2019年7月8日以降の契約は新しいルールが適用されます。
詳細は国税庁HP/法人税基本通達9-3-5/保険料等をご参考ください。
尚、下記の記事でも税制改正の内容をわかりやすく解説しています。
損金として認められる時期は、従業員と役員で異なる
損金にすることができる退職金ですが、その計上時期は役員と従業員では違いがあります。
一般従業員の退職金の計上時期
従業員に退職金を支払った場合、損金計上するのは、当然のように退職金支給日と考える方も多いのですが、別の日に設定することが可能です。
退職金の損金算入時期は、他の経費と同様、債務がいつ確定したのかで考えるため、下記の3つの日の、いずれかから選択することが可能です。
- 当該従業員の退職日
- 当該従業員に退職金が支払われた日
- 就業規則に記載されている退職金の支払日
例)
会社の決算月:3月
退職日:3月25日
退職金支払日:4月25日
このような場合には、3月25日、4月25日のどちらかを選択して、損金計上することが可能となります。
退職金の損金計上を事業年度の前にするか(今期)、後にするかで(翌期)、利益にも大きく影響しますが、法人税の課税上より有利な時期を選ぶことができます。
役員の退職金の計上時期
役員退職金の損金計上時期は、原則、株主総会での決議が行われた日となるのですが、例外もあり、下記のいずれかを選択することができます。
- 株主総会で退職金の額の決議が行われた日
- 役員退職金を支払った日
例)
会社の決算月:3月
株主総会での退職金の決議:3月25日
退職金支払日:4月25日
このような場合には、従業員退職金同様、3月25日、4月25日のどちらかを選択して、損金計上することが可能となります。
原則はあくまで株主総会決議日の3月25日なのですが、役員退職金は金額も大きいことから、退職金支給日という例外も認められています。
なぜ役員退職金に株主総会での決議が要るのか
取締役など役員の退職金を支払う場合には、会社法上、定款によって定めがない場合には、株主総会の決議によって、承認される必要があります。
役員退職金について、定款に定めているケースはほとんどないと思われますので、実際には株主総会の決議が必要となります。
たとえ、権限のある社長であっても、株主総会なしでは、役員退職金の決定は下せないことになります。
もし、株主総会などの決議をせずに、役員退職金を支払ってしまった場合には、損金に計上することができず、法人税が課税されることになります。
ただし、法人税法上における『みなし役員』の退職金については、この限りではありません。
みなし役員とは
会社法も法人税法上、役員として扱われる方は、取締役、監査役、執行役、会計参与、理事、幹事などを言います。
一方で、会社法上は役員には該当していませんが、法人税法上の役員となっている方をみなし役員と呼びます。
みなし役員になるのは、会社の従業員以外で経営に関与している方で下記となります。
みなし役員
- 取締役又は理事となっていない総裁、副総裁、会長、副会長、理事長、副理事長、組合長等
- 合名会社、合資会社及び合同会社の業務執行社員
- 人格のない社団等の代表者又は管理人
- 法定役員ではないが、法人が定款等において役員として定めている者
- 相談役、顧問などで、その法人内における地位、職務等からみて他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事していると認められるもの
など
みなし役員は会社法上の役員ではないのですが、法人税法上の役員となるため、退職金の支払時に株主総会が不要となるだけで、一般の従業員の退職金の取扱いではなく、取締役等と同じ取扱いで退職金を支給することになります。
結果、過大な役員退職金は損金にすることはできないなど、制限を受けることになります。
退職金の損金計上が認められない場合も
役員の退職金は一般従業員と異なり、法人税法上、不当に高額とされた場合、損金計上が認められないという制限があります。
しかし法人税法で、いくらが高額な退職金となるかについて、具体的な算定方法を提示しているわけでもありません。
一般的には、功績倍率や役員としての在任期間によって、金額を定める傾向にあります。
一般的な役員退職金の損金計上可能な額
役員報酬月額 × 役員在任期間 × 功績倍率
他の方法で算出することでも問題はありませんが、同一業種、同一規模、同一地域の同業他社の退職金と比較され、高額すぎると判断されれば、損金不算入になります。
退職金が過大かも知れないと思われる場合には、税理士さんや税務署に確認することをオススメします。
使用人から使用人兼務役員になった場合の退職金
使用人兼務役員とは、取締役営業部長や取締役工場長など、使用人(従業員)としての肩書きを持つ役員のことをいいます。
使用人兼務役員は使用人としての立場も備えているため、雇用保険への加入が可能となります。
また、お給料については役員部分の報酬については、役員同様、定期同額給与となりますが、使用人部分の給与については定期同額給与にしなくても損金計上することが可能となり、自由度が高いことがメリットです。
使用人から使用人兼務役員へ昇格したような場合の退職金支給のタイミングは下記のいずれかであれば、損金計上できます。
- 使用人兼務役員に就任したタイミングで、使用人としての期間に対する退職金を支給(退職金打ち切り支給)
- 上記のタイミングで退職金を支払わず、使用人兼務役員が役員となったタイミングで退職金を支給
使用人兼務役員から役員になった場合の退職金
使用人兼務役員から更に昇格して、取締役、監査役、執行役、会計参与、理事、幹事などの役員となった場合も見ていきましょう。
使用人から使用人兼務役員になった際に、使用人としての退職金を既に受け取っていたかがポイントとなります。
既に受け取っていた場合に、退職金を支給した場合には、たとえ使用人部分の退職金であっても、賞与とみなされ、損金計上することはできません。
一方、使用人兼務役員になった際には、退職金を受け取っていなかった場合には、今までの使用人の期間についての退職金は、損金計上することができます。
使用人から使用人兼務役員へ。使用人兼務役員から役員へ
このように退職金を支払っても賞与としての扱いとなり、損金計上が認められないことから、一般的には使用人兼務役員に就任した際に、退職金を支給することが多いようです。
まとめ
使用人、使用人兼務役員、役員の退職金が損金計上できるタイミングは別となるので、税理士とよく打ち合わせをしながら、退職金支給をすすめていきましょう。
また、退職金の原資は現金を積み立てる方法もありますが、生命保険を使って、節税をしながら、効率的に貯蓄をしていくと合理的です。
退職金原資作りついては、ファイナンシャル・プランナーなどに相談しながら、検討していきましょう。