生命保険と法人税の損金の関係性について

生命保険と法人税の損金の関係性について
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企業(法人)で生命保険を契約する目的は、保険本来の死亡保障の役割もありますが、なにより法人税負担の軽減を狙いとしているケースが多いでしょう。法人向け生命保険の払込保険料は、損金として計上できるようになっていて、損益通算によって益金を減らし、結果的に法人税が節税できるということです。

とはいえ、どんな生命保険のどんな保険料もすべて損金として計上できるかというと、そうではありません。実際、全額損金に算入できるタイプや、半分は損金不算入のタイプ、あるいは3分の1のみ損金に入れられるタイプ……。初見では理解しきれないほど複雑な印象をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

わかりにくい点は専門家に相談するのが解決への近道ではありますが、実際に法人向けの生命保険に加入した場合、どのように法人税と関わってくるのか、経営者の方が把握しておくことも重要です。

2019年7月に法人向け生命保険の保険料に関する税制改正が行われました。
2019年7月8日以降の契約は新しいルールが適用されます。
詳細は国税庁HP/法人税基本通達9-3-5/保険料等をご参考ください。

尚、下記の記事でも税制改正の内容をわかりやすく解説しています。

目次

法人向け生命保険の保険料の損金算入について

はじめに、法人税の課税の仕組みについて確認しておきましょう。まず、そもそもとして法人税は、企業の所得に応じて決定(課税)される税金です。所得に対して定められた税率をかけ、法人税額が確定します。その税率は以下のとおりです。

・普通法人における法人税率(基本税率)
平成30年4月1日以降に開始される事業年度:23.2%

参考:財務省 「三 法人課税」

・中小法人(資本金等が1億円以下の株式会社)における法人税率(軽減税率)
平成24年4月1日から平成29年3月31日の間に開始する各事業年度:15%
*年間所得800万円以下

国税庁HP・法人税率の引き下げ

所得に対して課税されるわけですから、すなわち、所得が少なければ、法人税の納税額もおのずと抑えられるということです。所得は『益金(利益)-損金(経費)』で算出されるので、利益が多く生まれた事業年度においては、損金をつくり利益圧縮を行うことで、課税対象所得を減らせます。その他の経費が高額になる場合は必要ありませんが、法人生命保険の保険料も損金計上できるため、法人税節税の方法として活用されているのです。

なお、法人税のほかに企業に対する課税として、『法人都民税(法人県民税、法人市民税)』、『法人事業税』という税金があります。しかし、どちらも所得に所定の税率がかけられますから、税負担軽減には、同様に利益圧縮の対策をとるのが得策と言えます。また、資本金、および出資金の額が1億円以下の法人には、税制上の優遇措置があることも覚えておいて損はありません。

損金に算入できる支払い保険料の割合について

法人向けの生命保険商品を契約すれば、損金を生み出し節税につながることがわかりました。確実に損金にできるのなら、『益金がゼロになるように加入すればいいのではないか』と思われるかもしれません。確かに、益金-損金=0ということは所得も0円。法人税も課税されないのですが、そもそもすべての生命保険料が損金に算入できるわけではなく、その法人向け生命保険商品によって、損金可能な範囲が異なっています。損金に算入できる割合は、しっかり確認しておく必要がありそうです。

・法人保険の種別と保険料の損金割合
全額損金生命保険:支払保険料全額が損金として計上できます。
(一般的に養老保険、定期保険、生活障害保険などが該当)
2分の1損金生命保険:支払保険料のうち、2分の1が損金として計上できます。
(一般的に逓増定期保険、養老保険、長期平準定期保険などが該当)
3分の1損金生命保険:支払保険料のうち、3分の1が損金として計上できます。
(一般的に逓増定期保険などが該当)
資産計上型生命保険:支払保険料全額が資産として計上されます。
(一般的に終身保険などが該当)

生命保険の商品タイプによって、損金算入できる割合が違ってきます。なかには払込み保険料の全額を資産に計上する商品もあり、利益を圧縮するという目的が達成できない可能性もあります。入ってから想定と違うということにもなりかねませんので、保険商品の検討段階から、損金に計上できる割合についても把握したほうが良いでしょう。

全額損金生命保険が最良の選択か

保険料の損金算入割合はタイプごとに異なります。損金算入、および税金との兼ね合いを考慮し、考えてみると、3分の1より2分の1、2分の1より全額が損金にできた方が、よりメリットが高いように見受けられます。しかし、必ずしもそうとは限らないのが現状です。
もちろん、損金算入ができる額面が多ければ、契約した年度の法人税に効力を発揮しますが、解約返戻金の受取時に課税されてしまう問題などがあります。
全額損金(全損)に算入できる『定期保険』と、2分の1が損金(半損)になる『逓増定期保険』をメリット・デメリットの観点から比較してみましょう。

・定期保険(全額損金生命保険)のメリット
( 1 )支払保険料が全額損金に計上できるため、利益圧縮でき法人税軽減につながる。

・定期保険(全額損金生命保険)のデメリット
( 1 )支払保険料が全額損金に計上されるため、解約返戻金を受け取ると雑収入となり、益金に算入されてしまう。
( 2 )解約返戻金の返戻率がピーク時でも80%~85%程度にしか到達しない。

・逓増定期保険(半分損金生命保険)のメリット
( 1 )支払保険料の2分の1が損金に計上、残りの半分は資産に算入されるため、解約返戻金を受け取ると、半分だけが雑収入(益金)になる。
( 2 )解約返戻金の返戻率がピーク時だとほぼ100%に到達する。

・逓増定期保険(半分損金生命保険)のデメリット
( 1 ) 支払保険料の2分の1だけが損金に計上されるため、全額損金生命保険と比較すると利益圧縮の効果が少ない(節税効果が低い)。

したがって、法人税軽減を目的とした生命保険加入の場合は、解約返戻金を受け取る際の扱われ方について、注意していただかなければなりません。

支払保険料を全額損金に算入して、資産計上しない全額損金生命保険のケースだと、解約返戻金の全額が雑収入の扱いになり、益金へと計上されてしまうわけですから、何か経費として支出できないと結局法人税の課税対象となってしまうのです。設備投資や役員退職金などに活用しない限り、税金を繰り延べしただけになるということです。

反対に、逓増定期保険(半分損金生命保険)のケースで言えば、もともと保険料の2分の1が資産となっているため、解約返戻金も2分の1だけが課税対象になってきます。すなわち、定期保険(全額損金生命保険)は、加入した事業年度の節税に大きな効果を発揮し、逓増定期保険(半分損金生命保険)は解約返戻金を受け取った事業年度(出口)での節税に影響をもたらします。これが、法人向け生命保険商品にかかわる損金を考えるうえで、非常に重要なポイントと言えるでしょう。

まとめ

支払保険料を全額損金に算入できる定期生命保険は、契約した事業年度の法人税節税に効果があります。
ただし、解約返戻金の受取時に益金として課税されてしまうため、あらかじめ解約返戻金の使途を想定しておくことです。場合によっては、逓増定期保険のように支払保険料のうち2分の1、もしくは3分の2が資産に計上される保険商品への加入が適している可能性もあります。法人向け生命保険を検討する際には、支払保険料と解約返戻金の税務上の扱いについて事前に確認し、契約の段階である程度の出口戦略のビジョンを持っておく必要があります。

生命保険と法人税の損金の関係性について

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