経営権を後継者にスムーズに引き継ぐためには、経営者の地位以外にも会社を支配するために必要な数量の自社株を取得することが必要になります。業績の良い会社の場合には自社株の評価も高くなります。そうなれば相続税や遺産分割について問題が生じることもありますので、株価を適宜引き下げたのちにある程度の株式を後継者に移しておく必要があるでしょう。生きているうちに移すためには、相続財産として課税される自社株の評価について確認しておくことが必要です。
中小企業で取引相場のない株式の株価計算方法
相続や贈与などで取得した株主が同族株主であれば、同族会社の株式の評価は会社の業績や資産内容を株価に反映させる原則的評価方法が用いられます。類似業種比準価額方式と純資産価額方式が原則的評価方法に該当しますが、この2つの方式を併用して利用する方式もあります。同族株主以外の少数株主の場合には、配当を受ける権利だけの株主となりますので、会社の配当金額により株価を計算する配当還元価額方式で評価します。
会社規模の分類
取引相場のない株式は会社の規模で評価方法を決定しますが、会社の規模は、大会社、中会社の大、中会社の中、中会社の小、小会社へと業種別に区分されます。総資産価額と従業員数基準、もしくは取引金額基準のどちらか低い基準で会社規模が区分されます。従業員数100名以上の企業はすべて大会社に区分されますが、総資産価額と従業員数基準と取引金額基準で区分が異なってしまう場合には、どちらか上位の区分で判定することになります。
様々な株価引き下げる方法
株価を引き下げるには、類似業種株価の引き下げ、純資産株価の引き下げ、会社規模の変更という3種類の方法があります。類似業種株価は類似する公開企業の業種、一株あたりの配当金額と利益金額、簿価純資産価額で決まります。これらの要素の中でも、自社の配当金や利益金額、簿価純資産価額については低いほど株価の評価は下がります。そのため類似業種株価を引き下げるために、次の対策を実施しましょう。
・配当金の引き下げ
配当金を引き下げる、もしくは配当をなくすことで株価を引き下げることができます。ただし株価評価に関係する配当金は経常的な配当のみです。
・簿価純資産の引き下げ
簿価純資産を引き下げるためには、含み損の出ている資産を売却したり、不良債権の貸倒を実施したりという方法があります。簿価で評価されている資産は売却や貸倒で減少し、株価の引き下げに繋がります。
・純資産価額方式における引き下げ
純資産価額方式での株価については、相続税評価を行った純資産と発行済み株式数で決まります。土地や有価証券の含み益が、資産の相続税評価を下げることになって株価引き下げに繋がります。
・株式数の増加による引き下げ
純資産株価は、相続税評価を行った純資産を発行済株式数で割って計算します。そのため株式数が増加すると株価は下がります。注意したいのは、株式数を増やすために第三者割当増資を行う場合に発行価額でみなし配当等が発生する可能性があるということです。株価は会社の規模に応じて類似業種比準株価と純資産株価方式、これらを併用した方式で計算されることは先に述べましたが、純資産株価が類似業種株価を上回ると会社規模が大きくなるため類似業比準株価の割合が大きくなって株価を低くすることに繋がります。
利益金額の引き下げで株価を引き下げる
類似業種株価を算出する際に大きく関係する要素が利益金額ですので、利益を引き下げることが株価引き下げには最有力な方法だと言えるでしょう。利益金額を引き下げるには生命保険を活用する方法があります。
生命保険を活用すると株価の引き下げに繋がる?
利益の繰延べ方法には保険料の損金算入を可能とする生命保険が有効です。金額設定が簡単で、様々な商品から選択することができます。企業の要望に沿う方法を活用することができ、結果として株価引き下げの効果を得ることができます。考えられるリスクとしては保険会社が破綻してしまうこと以外ありませんので、安全性や確実性が高い方法と言えるでしょう。活用できる保険商品には次のようなものがあります。
・定期保険
役員や従業員の保障と退職金の積立てを目的とする保険で、支払保険料の全額もしくは1/2が損金算入できます。
・逓増定期保険
役員の保障、そして退職金の積立てを目的とする保険で、支払保険料の1/2が損金算入できます。
・養老保険
従業員の福利厚生目的で加入する保険で、支払保険料の1/2が損金算入できます。
・がん保険
従業員の福利厚生を目的として加入する保険で、支払保険料の全額損金が損金算入できます。高業績の状況でキャッシュフローに余裕があるという場合には、いくつかの生命保険に加入して損金計上し、内部留保を蓄積するようにします。業績が悪化してしまった場合や退職金など多額な費用を必要とする場合に解約返戻金を受け取ることができます。
役員報酬が増得れば利益が下がる
費用として認められる役員報酬が多く支給されれば、その分会社の利益金額を下げることが可能です。ただし役員報酬のうち不相当に高額な部分の金額は損金算入を認められることはありませんので、適正な金額を判断する必要があります。不相当に高額な役員報酬の額とは、実質基準と形式基準で算出された金額です。このどちらにも該当する場合には多いほうの金額になります。
・実質基準
会社が役員に支給した報酬のうち、役員の職務内容や法人の収益状況、使用人に対する給料の支給状況、同種同規模の法人の役員報酬支給状況などを勘案し、役員の職務の対価としての相当額を超える金額のことです。
・形式基準
役員に支給した報酬額が株主総会や定款の定めよりも高い金額の場合で、多くの場合には株主総会決議で支給限度額などは定められています。総額を超える場合には過大役員報酬になります。役員報酬の支給限度額の定めがなければ商法上は無報酬が原則ですので、特約もなく役員報酬を支払うことは会社法違反になりますので必ず定めておく必要があります。
経営者に生前退職金を支給する方法
経営者が経営にほとんど関わらないという名誉会長や相談役という立場に就いた場合、生前退職金を支払うことになるでしょう。退職金の支給は損金処理が認められているため、オーナーである経営者の退職金は多額になることから当該期の利益は大幅に減額されることとなり、結果として株価も大きく下がることになるでしょう。
・生前退職金の支給条件
株価対策はオーナーの退職金支給の年度に合わせるということが大切です。常勤役員が非常勤役員になる場合、取締役が監査役になる場合、分掌変更等の後に報酬が50%以上減少するなど激変する場合は、原則的に生前退職金の支給が認められます。問題は実質的な経営権を有しているかどうかということで、同族会社の場合は簡単に役員の肩書を変更することや分掌変更も可能だと考えられますので客観的な証明は難しいかもしれません。しかし生前退職金を支給し株価が下げて株式のほとんどを後継者へ譲渡すれば、大株主でなくなった状態で取締役に残っていたとしても報酬は激変し非常勤であることから経営権を有していると判断されないと考えられます。
高収益部門の事業譲渡
高い業績を上げている優良企業は、高収益部門を持っていることがほとんどですので経営者が健康な状態の間に後継者を決め、高収益部門は別会社として後継者に経営を任せるという方法もあります。本体会社の自社株式の株価を下げることができます。
生命保険などを活用して株価を下げる理由
事業承継は後継者が血縁者か従業員などか、さらには生前贈与か死後に相続させるかなど、承継方法によっても対策が変わります。いずれにしても後継者の経済的負担を軽くすることが目的ですので、事前にどのような問題が起こりそうかを知っておくことが大切です。