退職所得は他の所得に比べて優遇されている。こんな話を聞いたことがあるでしょうか?
所得というと、会社から受け取る給与所得というイメージがありますが、個人事業主の事業所得や、不動産投資などによる不動産の賃貸収入など様々な所得があります。
その所得の大きさによって、住民税や所得税が課税されるのですが、他の所得と比べて、所得税や住民税の納税が少なくて済む所得があります。それが退職金なのです。
今回は、退職取得のメリットについてご紹介します。
退職金は支払われたときに税金が天引きされている
他の所得と異なり、納税通知書に退職金に対しての税金は計上されていません。
退職金には税制上の優遇措置があり、住民税、及び所得税においてメリットがあるようになっています。
ですが、何もしないと通常通り退職金のうち、20%が課税対象、源泉徴収されてしまいます。
優遇措置を受けるためには、あらかじめ『退職所得の受給に関する申告書』の提出が必要です。
勤務先に申請書を出すことで、控除を加味した退職金の所得が計算されますので、注意しましょう。
ただし、退職金の支払いの際に、勤務先から提出を促されることがほとんどだと思います。忘れずに提出しましょう。
それでは実際に、『退職所得の受給に関する申告書』を提出したケースと、未提出のケースを見ていきましょう。
『退職所得の受給に関する申告書』を提出した場合の課税額
モデルケースとして、勤続30年の方が2,000万円の退職所得を得た前提で考えてみます。
まず行うのは、『退職所得控除額』を算定すること。この控除は以下のように、勤続年数で決まってきます。
( 1 )勤続年数20年以下のケース:40万円 × 勤続年数
※80万円に満たないときは、80万円とみなす。
( 2 )勤続年数20年以上のケース:800万円 + 70万円 ×(勤続年数-20年)
※( 1 )、( 2 )ともに勤続年数のうち、1年に満たない端数があれば1年とみなす。
モデルケースを当てはめると、
・退職所得控除額= 800万円 + 70万円 ×(30年-20年)= 1,500万円
となります。なお、退職所得金額を求めるには、支給された金額から( 1 )、もしくは( 2 )の計算で出した退職所得控除額を差し引いたものを、さらに2分の1します。
・(退職金-退職所得控除額) × 1/2
モデルケースの退職所得金額を算出すると、以下のとおりになります。
・退職所得金額=(2,000万円 - 1,500万円)× 1/2 = 250万円
所得税は超過累進課税ですから、250万円の所得に対しては10%かかる(控除額9万7,500円)ことになり、住民税は10%の税率で計算できます。
・所得税= 250万円 × 10% - 9万7,500円 = 15万2,500円
・住民税= 250万円 × 10% = 25万円
すなわち、以下が手取りとして手元に残る退職金です。
・2,000万円 -(15万2,500円 + 25万円 + 5万2,500円※復興特別所得税)= 1,954万5,000円
退職所得控除活用のメリットを上げると、
・退職所得控除後の金額から半分のみ課税所得金額になる(役員勤続期間が5年以下は除く)
・ほかの所得と別で所得税率が計算される(分離課税)
ということになり、その効果の大きさがわかります。
『退職所得の受給に関する申告書』が未提出の場合の課税額
ちなみに、『退職所得の受給に関する申告書』を出していないケースではどうなるのでしょうか。
簡単にいうと、退職所得への控除がなくなり、2分の1の課税でもなくなってしまい、そのうえ20%の所得税が課税されてきます。
モデルケースの例にそのまま当てはめると、
・所得税= 2,000万円 × 20% = 400万円
・復興特別所得税= 2,000万円 × 2.1% = 42万円
・手取り金額= 2,000万円 - 400万円 - 42万円 = 1,558万円
『退職所得の受給に関する申告書』を提出したケースと比較して、約396万円もの金額が、手取りとして差にあらわれてきます。
提出の有無だけではありますが、大きな違いを生む結果につながります。
また、平成25年から平成49年までの間は、『復興特別所得税』の課税期間とされていますので、所得税額には2.1%が上乗せされることになります。
なお、『退職所得の受給に関する申告書』が未提出の場合、確定申告をすることで20%課税された所得税が、いくらか戻ってくる可能性があります。
その他に所得控除できるものがないか、よく確認してみてください。
現在、以下にあげる14種類の所得控除が存在しています。
雑損控除、医療費控除、生命保険料控除、社会保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済掛金控除、寄付金控除、障害者控除、配偶者控除、扶養控除、配偶者特別控除、基礎控除、寡婦控除、勤労学生控除
たとえば、不動産所得や事業取得など、ほかの所得から差し引きされなかった控除があるケースや、給与所得と退職所得の支給年度が異なり、退職金から差し引く所得控除がある場合も想定されます。これは『退職所得の受給に関する申告書』を提出していた場合でも同様で、控除できるだけ控除するのが、節税面でのメリットは大きくなってきます。
会社役員の役員退職金について
企業に長年勤務し、退職金の支給を受けるのは一般社員・管理職のみならず、役員以上の経営陣も同様です。
基本的には、算出方法で税額の計算は可能となっています。ただし、役員の任期が5年以下の場合には注意が必要です。
平成24年度の税制改正によって、平成25年1月1日以降に支給される役員等への退職金のうち、役員勤続年数が5年以下のケースについては、『特定役員退職手当等』の区分となり、退職所得金額を求める際に、2分の1の計算の適用ができません。
しかし、退職金を受け取る個人のメリット以外に、企業にとっての利点もあるのが役員退職金です。
役員の退職金については、通常の役員報酬、役員賞与と異なり、全額損金に算入できるようになっています。
このメリットがあることから、法人税節税の対策としても効果的です。
とはいえ、すべての額面を認めてしまうと、退職金を支払えば支払っただけ節税できてしまうことにつながりますので、制限が設けられています。
役員退職金として、適正な価格であることが求められるのです。
支給額がいくらになるかによって、退職金を受け取られる役員の方の手取り額にも影響してきますから、どのような計算で、どの程度支払うのが適正かという点については、あらかじめ確認が必要でしょう。
役員退職金は、以下の計算で設定するのが一般的と言われています。
・退職時の月額役員報酬 × 在任年数 × 功績倍率
社長、会長など、より上位者であれば功績倍率が高くなり、退職金の額も増える計算です。
企業としても、多くの功績を残した役員の方には、しっかり退職金を支払いたいところでしょう。
そのためには、まとまった資金がなければなりません。
役員退職金の資金を形成する方法としては、法人向けの生命保険が活用されることが多くなっています。
支払う保険料こそ比較的高めに設定されていますが、その分中途解約時の返戻率が高く、解約返戻金も多くなっています。
また、そもそも保険料のうち、2分の1~3分の1を損金に計上できる利点もあり、法人税の節税にもつながります。
もちろん、保険を契約することで万一の場合の保障も得られますし、法人生命保険に加入して役員の方の退職に備えるのは、さまざまな観点からおすすめできる方法です。
法人向けの生命保険には、多くの商品が揃っていますので御社に適した商品をお選び頂けるでしょう。
退職金にかかる税金の計算方法を知っておく事と、ご自身が受け取った際の手元に残る金額などをイメージしやすいのではないでしょうか。セカンドライフの計画などにぜひご活用ください。