企業の法人税対策として、生命保険が活用されることがあります。その場合、保険料を実際に支払った事業年度の経費(損金)に算入することができ、利益圧縮によって節税効果が生まれます。ただし、その一方で給付金がおりたときや、途中解約によって解約返戻金を受け取った場合、その事業年度の収益(益金)として扱われます。
同じ事業年度に役員の退職金や大きな事業投資が行われないと、税金の繰り延べ効果があるのみで、トータルでの節税効果は少なくなってしまう可能性があります。
それに比べて、相続税は同じ人物から複数回発生することはありません。つまり、実際に相続を受けるタイミングで、うまく生命保険を活用して相続税の評価額を低くすれば、相続税の軽減効果があり、その後相続について追加で課税される心配もないのです。
今回は、生命保険と相続税評価額がどのような関係性を持ち、保険の活用がどんなメリットを生むかについてご紹介します。
死亡時保険金を受け取った場合に発生する税金
被保険者(保険の対象となる人)の死亡時に保険金がおり、受給するケースでは被保険者、保険料の支払い者、および受取人がどのように設定されているか、保険の契約形態によって課税される税金の種類が異なってきます。まず、相続税が課税されることになる契約形態を確認しておきましょう。
<ケース1>
保険料の支払い及び、被保険者が夫で受取人が妻、または子供の場合、受取人には『相続税が課税』されます。
次に被保険者が夫でありながら、保険料の支払いや死亡保険金の受取人が異なるケースを考えて見ます。
<ケース2>
保険料の支払いが妻、被保険者が夫、受取人が妻の場合、受取人が『死亡時保険金をまとめて受け取った場合は一時所得』となり、『年金方式での受け取りなら雑所得』となる。したがって『所得税が課税』されます。
<ケース3>
保険料の支払いが妻、被保険者が夫、受取人が子供の場合、受取人には『贈与税が課税』されます。
ケース2、もしくはケース3の場合だと、相続扱いにならず、相続税の課税対象にはなりません。そうなると、相続税ならではのメリットがなくなってしまうほか、そもそもの税額があがってしまう可能性も否めません。保険の加入時点から契約形態には注意を払っておく必要があるでしょう。
満期返戻金を受け取った場合に発生する税金
なお、相続税が課税されるケースではありませんが、被保険者死亡時の保険金のほかに、満期返戻金を受け取ると、課税の対象になります。死亡時保険金と同様に、契約形態によって扱いが変わってきます。
<ケース1>
保険料の支払い、被保険者、受取人が夫の場合、受取人が『満期返戻金をまとめて受け取った場合は一時所得』となり、『年金方式での受け取りなら雑所得』となる。したがって『所得税が課税』されます。
<ケース2>
保険料の支払い及び被保険者が夫、受取人が妻の場合、受取人には『贈与税が課税』されます。
生命保険加入による相続税の対策について
生命保険を相続対策として活用するメリットのひとつに、まずあげられるのは『非課税枠の活用』です。被相続人(相続する人)が保険料を負担していた生命保険において、被相続人の死去で発生した死亡保険金には、一定の相続税を非課税とする制度があります。
500万円 × 法定相続人の人数 = 非課税限度額
法定相続人以外が死亡時保険金を受け取った場合には、この非課税枠は適用されません。したがって、受取人を法定相続人にして契約しておくことにより、相続税の評価額を圧縮する効果がうまれます。もし法定相続人が4人いるのなら、非課税限度額上限の2,000万円が死亡時保険金として受け取れるように設定すれば、非課税枠を最大限活用できることになります。
500万円 × 4人 = 2,000万円
相続財産には基礎控除も設定されているため、死亡時保険金以外の相続については、基礎控除でまかなうことも可能です。
・相続にかかわる基礎控除について
3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の人数)
相続税の税率は相続の評価額に応じて変わってきますから、控除が多いほうがメリットがあるのは明白です。
・相続税の税率について
各法定相続人の取得金額が1、000万円以下→10%
各法定相続人の取得金額が1、000万円超~3,000万円以下→15%
各法定相続人の取得金額が3、000万円超~5,000万円以下→20%
各法定相続人の取得金額が5、000万円超~1億円以下→30%
各法定相続人の取得金額が1億円超~2億円以下→40%
各法定相続人の取得金額が2億円超~3億円以下→45%
各法定相続人の取得金額が3億円超~6億円以下→50%
各法定相続人の取得金額が6億円超~→55%
法定相続人が4人、死亡時保険金が2,000万円のケースで、もし非課税枠を活用しなかったと考えてみると、課税される税率は10%。単純計算で一人あたり、50万円も課税されることになっていました。
相続にかかわる基礎控除、および税率については、平成27年1月1日の法改正により、課税対象となる範囲が拡大され、税率も細分化されて一部では上昇しています。これまで資産家以外には影響が少ないと思われていた相続税について、しっかりと対策を行う必要がでてきたわけです。
そうした場合に、非課税枠の活用は無視することはできないでしょう。加入が早ければ早いほど、保険料は高額にならずにすむので、検討だけでも進めることをオススメします。
生命保険の加入で相続対策を行うメリットについて
死亡時保険金の非課税枠については、ほかにも生命保険活用のメリットは存在しています。
一点目は、すぐにキャッシュが調達できる点です。人が亡くなったときには意外と資金がかかる場面が多いもの。葬儀やその他の財産の相続税の支払いに備えて、現金がどの程度用意できるかということが、安心感につながります。預金などの場合だと、実際に相続人が受け取るまでにはたくさんの手続きを経たうえで、日数も要してしまいますが、死亡時の保険金は相続人が請求してから早期に入金されるようになっています。そのため、資金調達という観点からも保険金は活用しやすいのです。
続いて、遺産分割が容易な点があげられます。遺産分割の協議は、得てして多くのトラブルを生んでしまう傾向にあります。しかし、生命保険は保険金の受取人があらかじめ設定されていますので、遺産を遺したい人に確実に相続する方法として、適していると考えられます。
また、解約返戻金や満期返戻金の返戻率が100~105%程度になり、掛け金よりも増えて戻ってくる商品もありますから、現在のゼロ金利で金融機関に預けるよりも資産性が高いという点も見逃せません。
生命保険の加入で相続対策を行うデメリットについて
生命保険に加入して相続税対策を行う場合、メリットだけではなくデメリットもあります。それは、契約形態によって課税関係が煩雑化することです。契約段階で、将来的な保険金の課税まで把握しておかないと、後々損をしてしまうことになりかねません。
そうなっては本末転倒なので、あらかじめ、受取人の税負担が軽減されるような契約を結ぶと良いです。専門家なら、より効果的な節税対策の提案が可能です。加入前にご相談いただくことをオススメします。
場合によっては、生命保険を活用した生前贈与を行うことも視野に入れると良いでしょう。現金ではなく、生命保険にしておくことで、確実に資産は引き継がれます。