利益の多い企業は、その利益に応じた法人税を支払わなければなりません。少しでも税負担を軽減するために、節税対策に取り組むのは自然な流れです。
例えば、不動産を会社の名義で購入したり、設備投資をするのですが、法人税の節税という観点だけでいうと、キャッシュアウトが増えるわりに、節税効果はそれほど高くないのが現実です。
また、期末賞与の支給などによって節税を図る手ではありますが、役員賞与は損金の対象になりません。かわりに節税効果のある役員退職金が支払われるとしても、会社の運営の重要な役割りを担う役員の方ですから、退位することは難しいでしょう。
仮にこれらの支払いを損金算入できても、一時的な対策に過ぎないので、将来のために資産を残すことができません。未来へ向けて利益を先送りし、残ったキャッシュを資産として、さらなる企業の発展に活用できるのが理想的と言えます。
そこで、利益が出ている会社の節税と資産形成を目的に、生命保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。実際に多くの企業が生命保険の利用で節税対策をとっています。今回は、その効果や活用方法をとりあげます。
2019年7月に法人向け生命保険の保険料に関する税制改正が行われました。
2019年7月8日以降の契約は新しいルールが適用されます。
詳細は国税庁HP/法人税基本通達9-3-5/保険料等をご参考ください。
尚、下記の記事でも税制改正の内容をわかりやすく解説しています。
生命保険商品を使った節税の効果
まず、ここでいう生命保険は、個人で加入する商品ではなく、企業が契約者および保険金の受取人となって、経営者や役員を被保険者にして契約することを前提に考えます。
月々の保険料を払い込むので、むしろキャッシュが減ってしまうのではないかと思われるかもしれません。
しかし、法人生命保険は払込保険料の一部、もしくは全部を損金計上できるようになっています。たとえ、期末に1年分の保険料を支払ったとすると、その事業年度の経費扱いとして、算入できます。つまり、保険料をすべて期中に支払っておくことで、同じ年度の利益の圧縮になるのです。
そのため、決算期末になってから、多くの利益が残っていることが判明した場合に、生命保険による節税という対策がとりやすいのです。保険以外の節税対策だと、すぐに効果は出にくいのですが、保険においては加入するだけで良いので、急を要する時期に駆け込み的に対応できます。この迅速かつ、自由度の高い点も生命保険による節税の優位性と言えるでしょう。
生命保険商品の資産性の高さ
企業の節税対策には、『資本金の金額の変更』や『固定資産の除却』、『含み損のある不動産の売却』など、さまざまな方法があります。これらも経費として損金に計上できるので、会社の利益を圧縮する効果があり、節税にも有効な対策です。しかしながら、将来にわたって資産形成をするという意味合いでは、生命保険に勝るものはないでしょう。
保険料を経費に算入できますが、半分を損金に計上して残り半分を資産算入できる生命保険商品もありますし、中途解約によって解約返戻金を受け取ることもできます。法人向けの生命保険は、保険料が高い傾向にありますが、その分解約返戻金も高額です。節税したうえに、役員の方に支払う退職金や、さらに企業の成長を加速させる資金も確保できるのは、大きなメリットになります。
生命保険商品の種類
法人向け生命保険には、いくつかの種類があり、中には積み立て型の商品も存在します。しかし、その積み立て型には、損金計上できないタイプも含まれますので、契約前にしっかり内容を確認しておくことをオススメします。
損金に算入でき、節税の効果も高い保険商品でいうと、『逓増定期保険』、または『長期平準定期保険』を検討されると良いでしょう。
『逓増定期保険』は、死亡時の保険金額が契約した直後から期間満了までの間に、スタート時の状態から5倍に増える定期生命保険商品です。満期になった年における、被保険者の年齢制限など、さまざまな条件を満たしている状態であれば、払込保険料の2分の1(4分の1)を損金に計上することができます。
中途解約時に支払われる解約返戻金は、ピーク時に保険料の総額の9~10割にも達する保険です。解約返戻金の金額がピークに到達するのが早いかわりに、契約者たる法人が支払う、払込保険料自体も高額になっています。
『100歳満了』というように、終身保険とほぼ同等とも考えられる、長期間の保証期間が設定された死亡保険を『長期平準定期保険』と言います。『逓増定期保険』ほどではありませんが、保険料はやはり割高な部類に入ります。しかしそのうちの2分の1を損金に算入することができます。
『長期平準定期保険』のメリットは、それだけではありません。解約返戻金を担保にすることで、無審査での借り入れが可能になっているのです。手続きから1週間程度で融資が受けられますから、突発的な資金需要やビジネスチャンスに対応できるシーンが増えてきます。
この方法で借り入れられる限度額は、借り入れの時点で設定されている解約返戻金の9割。生命保険自体への加入から時間が経過しているほうが、より高額を借り入れられるということです。
なお、どの保険を契約した場合にも、生命保険商品そのものの保障が受けられます。生命保険なので当然といえば当然なのですが、節税だけを目的として加入するわけではありません。実際、被保険者は経営者、もしくは経営に影響力を持つ役員ですから、予期せぬ事態が起これば、会社の経営が立ち行かなくなってしまう危険性があります。
保険への加入は、そのリスクヘッジ。万一に備える意味でも、契約しておくことで安心につながります。
法人向け生命保険商品加入のリスク、デメリット
法人税の節税に対して、生命保険の活用が有効なことはお分かりいただけたでしょうか。ですが、残念ながら必ずしもメリットばかりというわけではありません。法人向けの生命保険を契約した後、想定されるリスクやデメリットについても、あらかじめ把握しておきましょう。
法人向けの生命保険は、保険料が高額です。そのため、契約期間中の金銭的な負担は非常に大きな割合を占めます。払込み保険料の額は、途中で変更することができず、加入当初より増加はしても減少することはありません。もちろん、中途解約という選択肢はありますが、加入からの時期が短ければ、損失につながってしまうかもしれません。保険料を支払い続けられるだけの資金があるか、保険料を支払ったとしても経営が圧迫されないか、しっかりシミュレーションしてプランを立てる必要があります。
また、生命保険を活用した節税の効果があらわれ、黒字を生み出すようになるまでに、数年の期間を要するのが一般的。節税対策には即効性がありますが、すぐに支払った資金がプラスに転じる性質の商品でないことにご注意ください。
もともと、『課税の繰り延べ』によって、節税効果を生むのが法人向け生命保険です。解約返戻金を受け取った場合には、解約返戻金が損金計上され、この年の企業の利益が多ければ、解約返戻金はダイレクトに課税されます。逆に、損失が増えてしまった年に解約返戻金を受け取ったとしましょう。
計上されていた損失次第ではあるものの、解約返戻金が益金算入されたとしても、その税額は抑えられるはず。こうして、『将来的な赤字に備えられる』のがメリットなのですが、問題は常に利益が出たまま、満期を迎えてしまいそうなケースです。解約返戻金による節税効果を発揮する機会がないのなら、解約のタイミングは慎重に検討しましょう。
多様なパターンを想定しながら、『出口戦略』を練っておく必要がありますが、まずは相談するのが良いでしょう。