法人の経営者が相続する財産のうち、自社株の占める割合が大きいことはよくあります。自社株は経営者本人の財産ですから、相続が行われると相続人は、当然に相続税を支払わなければなりません。そして、その税額は株の『相続税評価額』によって決まります。
経営が順調なら、株式発行時より株価はあがり、相続するときには、想像だにしなかった株価になっている可能性があります。しかし、上場企業でない株式会社の株式を現金化するのは困難です。経営者が保有していた株式を、すべて継承するというケースがほとんどでしょう。
経営者所有の自社株の『相続税評価額』は高くなりがちですが、多額の課税を避けるために所有株式を調整してしまうと、場合によっては、後継者に過半数の株が受け継がれなくなってしまうかもしれません。多くの株式がほかの人間の手に渡ってしまえば、そのまま会社が乗っ取られてしまうリスクが高まります。会社の確実に事業を継承するには、自己所有の株式を減らさずに、税金対策を講じる必要があるのです。
自社株の相続税はどのように決まるか
前述した『相続税評価額』は、『類似業種比準価額』を用いて次のように算定されます。
類似業種の上場企業の株価 × 自社の配当・利益・純資産を考慮した割合 × 企業の規模による調整額※1 × 発行済み株式数※2
※1 大会社:0.7、中会社:0.6、小会社:0.5
※2 1株あたりにおける資本金額を50円として計算した場合の数(1株あたり資本金額 / 50円)
このうち、自社の配当・利益・純資産を考慮した割合を『比準割合』といい、以下の計算にて求めることができます。
{(自社1株あたりの配当金額 / 類似業種1株あたりの配当金額) + (自社1株あたりの利益金額 / 類似業種1株あたりの利益金額) × 3 + (自社1株あたりの純資産評価額 / 類似業種1株あたりの純資産評価額)} / 5
計算式を丸暗記してまで覚える必要はありません。重要なのは、どういった計算が行われているかを把握しておくことです。算定方法を理解すれば、取るべき対策が見えてきます。
今回のパターンでいえば、上の式から『類似業種比準価額』は、配当金額:利益金額:純資産評価額、『1:3:1』の比率で構成されていることがわかります。つまり、『相続税評価額』に影響の大きい数字は『利益金額』なのですね。
したがって、『当期自社利益を圧縮させて、自社株の株価を引き下げる』対策が取れれば、相続税の負担を減らす方策となりえます。
当期自社利益を圧縮する方法
当期の利益を圧縮するには、すなわち経費を計上して決算対策をすればいいのです。そうすれば、株の一時的な評価額の変更は容易だといえます。
具体的に考えられる方法として、「役員への退職金の支給」「含み損のある有価証券・不動産の売却」「未稼働の固定資産の除却」「不良債権および不良在庫の処分」「法人生命保険の活用で損金を作る」などが挙げられます。具体的に、ひとつずつ検討してみたいと思います。
まず、相続前提という状況からして、一見すると実行しやすそうな「役員への退職金の支給」ですが、実務上、社長の退任は経営に大きなダメージを与える可能性があり、なかなか実行は困難だと思われます。
つぎに、「含み損のある有価証券・不動産の売却」についても、そもそも所有不動産が購入価額より値下がりしていなければなりません。また、同族会社やグループ会社に売却するのであれば、税務上問題とならない価額という条件がつきます。
「不良債権および不良在庫の処分」も、第三者の立場から処分を立証しなければならず、債権を放棄した日時や金額などの記録を証拠として残るようにする手間が発生します。
その中で、最も取り組みやすく節税効果も期待できるのが、「法人生命保険の活用で損金を作る」方法です。
生命保険加入による利益圧縮と、相続税の節税
生命保険を活用して、損金を作り自社利益を圧縮するためには、当然ながら生命保険への加入が必須になってきます。ただ、加入すればどんな生命保険でもよいのかというと、それは誤り。積み立て型の保険などは損金に計上できません。「支払う保険料が、会社の損金に算入できる生命保険であること」が求められます。
損金計上可能か否かは保険の種類や契約内容によって、異なってくるのですが、逓増定期保険、もしくは長期平準定期保険への加入するのが効果的です。
逓増定期保険は、保険金額が加入直後から満期までに当初の5倍まで増える定期保険。保険金額や、満期時における被保険者の年齢制限を満たしている前提ではありますが、法人の税務上、支払い保険料の2分の1~4分の1を損金算入できます。ピーク時の解約返戻金が保険料総額の9割~10割であり、なおかつ加入からかなり早い段階で、ピークを迎えるため、支払い保険料が非常に高額になっています。その結果、利益を圧縮する効果があがりやすいのです。
長期平準定期保険は、長期間の保証期間が設定されている死亡保険で、『100歳満了』というような、終身保険並の長期定期保険です。こちらも、逓増定期保険ほどではありませんが、保険料は高額といっていいでしょう。そのうち、2分の1を会社の損金に算入できます。くわえて、解約返戻金を担保に、一時的な資金を得るための借り入れを無審査で起こすことができるのも、長期平準定期保険のメリットのひとつです。借り入れ限度額は、借り入れ時点での解約返戻金の9割が目安。手続きして1週間程度でキャッシュを用意できるので、ビジネスチャンスを逃しません。
尚、損金を増やし、株価を下げることは、株式を贈与・相続するのではなく、買い取ってもらうという場合にも、後継者の金銭的負担を軽減できます。そのケースですと経営者本人が多額の解約返戻金を受け取ることも想定でき、退職金の代替としての活用も可能です。ただし、逓増定期保険、長期平準定期保険のどちらを活用するにしても、メリットばかりではありません。デメリット、リスクもしっかりと認識しておきましょう。
増定期保険、長期平準定期保険加入の注意点
保険料の支払いが高額になる同保険では、毎年多額の保険料がキャッシュアウトしていきます。保険料設定を誤ると、キャッシュフロー悪化が懸念されるばかりか、経営を圧迫してしまうこともありえます。株価を下げようとするあまり、経営悪化したのでは元も子もありません。保険料支払いの見通しは、早くから立てておきましょう。また、解約返戻金を退職金代わりにしようとする場合には、返戻金の戻り率がピークを迎えるタイミングと引退のタイミングがズレたとき、損をしてしまう可能性がある点も注意したいところです。
事業継承には、経営者保有の株式も後継者に継承しなければなりません。経営者の立場なら、利益をあげて資産を増やし、会社の事業拡大を目指して多大な努力をされていることでしょう。しかし、一方で将来的な事業継承の視点に立ってみると、好調な業績を維持し続けることは株価の上昇につながり、相続税の負担を大きくするということでもあるのです。
せっかく築き上げてきた会社ですから、バトンタッチ後の経営安定のために、後継者の負担は少なくしたいもの。事業が堅調で、現在の経営者である貴方が元気なうちから、未来を見据えて、自社株の株価対策を行っていく必要性もあるのではないでしょうか。ぜひ、法人生命保険の活用による自社株対策をご検討ください。