相続対策に威力絶大とも言われる生命保険は実は思ったほど活用されていません。生命保険の世帯加入率は高い割合でありながらも、相続税を申告した人の中で、生命保険の非課税枠を使い切れていない方々も多いのではないでしょうか。
相続税の非課税枠を使っていない理由としては、制度の存在自体を知らなかったという場合や相続税の課税対象になるくらいの財産が存在すると思っていなかったなど様々なでしょう。
相続税対策にならない保険を選択しているケースも
その中でも定期保険が満期になり、そのまま新しく保険に加入していない状況であった場合や、一定期間だけ保険金額が増額されるといった定期特約付終身保険の特約期間が終了し、保険金額が減っていたというケースなどもあります。これらは相続税対策にはなりませんので、相続対策として検討するなら終身型の生命保険を選択するなどが必要になります。
相続税対策には様々な方法がありますが、比較的取組みやすくて節税効果が高いという特徴が生命保険にはあります。相続税が課税されるタイミングに生命保険を使い相続財差を低く評価されれば、大きな節税効果を生むことが期待できるでしょう。
生命保険による相続税対策の方法とは?
生命保険による相続税対策の方法には、非課税枠を活用するといった方法と、相続財産を圧縮させる効果の2つに大きく分類できます。
・死亡保険金の非課税枠の活用
生命保険の被保険者(被相続人)が死亡したことで受け取った死亡保険金で、保険料の全部もしくは一部を被相続人が負担していたものについては相続税の課税対象です。
この場合、「500万円×法定相続人数」までの金額は非課税です。相続人以外の人が取得した死亡保険金については非課税の適用はされませんので、注意しましょう。
・相続財産を圧縮する
被相続人が契約者(保険料負担者)ならびに被保険者で、受取人が相続人の形態で一時払終身保険に非課税限度額まで加入すると相続財産を圧縮することが可能になります。
銀行預金がある場合には、そのまま生命保険に移すだけで節税できるという即効性の高さも魅力です。
・加入年齢の上限が高い保険会社もある
また被保険者(被相続人)となる人が高齢の場合には、保険にもう加入できないのではと思いこんでいる場合もありますが、保険会社によっては入るのは無理と思い込まれていることがありますが、保険会社によっては、80歳や90歳でも加入できる一時払終身保険もあります。(ただし審査方法により異なる場合あり)
法人なら3回非課税枠が使える
資産保有会社など法人を使うことで非課税枠はさらに拡大させることが可能です。会社から役員に支払われる死亡退職金は、法定相続人1人当たり500万円という非課税枠が適用されます。
相続人が妻と子ども2人の合計3人というケースの場合には、500万円×3人で1,500万円までが非課税です。
一次相続で1,500万円、二次相続で1,000万円、役員死亡退職金として1,500万円の合計4,000万円非課税枠が使えることになります。会社からの死亡退職金は必ず保険を使う必要はありませんので、内部留保することも可能ですがそうなると支払った保険料にはならないので多くの会社で保険が活用されています。
・死亡退職金の非課税枠
個人事業主が亡くなった場合、先に述べた例で言うと、妻と子ども2人が法定相続人であれば500万円×3人=1,500万円が非課税です。
個人事業主から法人化して会社を経営していた場合にはどうなるでしょうか。保険金は一度法人が受け取る形となり、その後死亡退職金として遺族に渡されることになります。
この場合も個人事業主の場合と同様に非課税枠の適用となりますので、1,500万円が非課税です。この非課税枠が個人、法人のいずれにも適用されるという点がポイントになります。
・どちらが得?同じ2億円の相続だけど…
例えば相続人が合計3人で、現金だけを2億円相続するとした場合の相続税は1,350万円です。
しかし同じ2億円でも、現金が1億7,000万円と死亡保険金1,500万円、死亡退職金1,500万円という内訳での2億円を相続した場合の相続税は975万円になります。
このように非課税枠を活用するかしないかで相続税は大きく違いが出てきます。さらに退職金の支給金額は、「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」が目安になるため、この額と不相当に異なる高額な金額でなければそのまま経費として処理されますので税金は発生しません。
個人事業主なら法人化するとメリットがある
それまで個人で営んでいた事業を法人として引き継ぐことを法人化といいますが、社会的な信用度が上がることや所得税の節税などメリットは様々です。
中でも税制上のメリットが大きいため、相続税対策のために法人化を検討する個人事業主は多いでしょう。
・法人化にあたっての注意点
法人化を検討することで税金対策など様々なメリットはありますが、退職金規定など支給規定の作成をしっかりと行う必要があります。
さらに帳簿関係や決算書関係など、経理処理が複雑化するということも理解しておきましょう。
誰が受取人なのかによっても経費にできるか変わる
法人が保険金を受け取る契約なら終身保険の保険料は全額資産計上する必要があるので法人税の節税対策にはなりません。
定期保険やがん保険を活用する場合には、支払った保険料の一部を経費として計上できるものがありますが損金算入できる割合などは契約形態などで異なります。
法人が加入するがん保険の場合、保険金の受取人が法人なのか被保険者(またはその遺族)なのか、解約返戻金の有無や保険期間、保険料の払込期間などで区分されます。税務処理においてはがん保険と医療保険は異なることに注意しましょう。
納税資金対策に「長期定期保険」
将来相続が発生した時に自社株を後継者に集中させる時に発生する相続税負担に対して、納税資金を備えとして準備する必要があるでしょう。
契約者(保険料負担者)法人、経営者を被保険者、保険金受取人を後継者という形で長期定期保険に加入することにより、経営者に万一のことがあっても死亡保険金を後継者の相続税の納税資金に充てることができます。
・保険加入中のメリット
死亡時に保険期間が満了していて保険金が支払われないということのないように、平均寿命や平均余命をカバーすることができる長期保険を選択します。
解約返戻金の無い定期保険であれば保険料は割安になりますし、支払保険料の全額を損金計上が可能です。
・相続発生時のメリット
相続財産の大半が自社株であれば、相続税を多く納税しなくてはいけなくなるため現預金が不足してしまうかもしれません。その備えとして死亡保険金を納税資金に充てることができるようにしておくと良いでしょう。
財産の圧縮のために「逓増定期保険」
相続財産の評価額を圧縮することで、将来発生する相続税の納税負担を軽減することができます。被相続人が契約者となり被保険者を相続人として逓増定期保険に加入することで、相続財産を現預金から保険契約へ変更することができます。
・保険の加入中のメリット
相続が発生しそうな時期まで解約年齢率を低く推移するように設定し、相続発生後に解約返戻率が一気に跳ね上がるといった保険設計を行うようにします。ただし低解約返戻期間中、相続が発生しなければ一度解約して同様の保険に再度加入します。
・相続発生時のメリット
低解約返戻期間中に相続が発生した場合、相続人が相続財産として保険契約を受け取れば解約返戻金を受け取ることができる権利は被相続人から相続人に移ることになります。
解約返戻率が低いときに相続が発生した場合には、相続人が保険契約を相続財産として受取り、解約返戻金を受取る権利が被相続人から相続人へと移ります。
相続する保険金額は、相続発生時時点で保険契約を解約した時の解約返戻金の金額です。そのため解約返戻率が低い時に保険を相続すると相続税負担を抑えることが可能です。
・保険契約を解約するメリット
相続財産として保険を受取った後は解約返戻率が跳ね上がったタイミングで保険契約を解約して解約返戻金を受け取ることが可能です。
法人が加入する保険でも相続対策は可能
今後相続税の対象となる人は増えていくといわれている中で、少しでも節税をしていく必要があるでしょう。そのためどのような保険にどうのような契約内容で加入すれば節税できるかをしっかりと理解してから加入することが大切です。