建設業向けの労災上乗せ保険を徹底解説!判例から学ぶ賠償リスク

監修横田 正則株式会社キューブコンサルティング 代表取締役/損害保険トータルプランナー・AFP

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この記事は2026年10月時点の情報にもとづいています(最終更新:2026年10月17日)。

「現場で事故が起きたらどうしよう」「政府の労災保険に入っているから大丈夫だろうか」「もし高額な賠償を請求されたら、会社はもたないのではないか」

建設業を営む経営者なら、一度はこうした不安を感じたことがあるのではないでしょうか。

建設業は、仕事中の事故で亡くなる人が業種別で最も多い業種です。令和7年は全産業の死亡者700人のうち214人(約31%)が建設業でした。一方で、政府の労災保険(以下、政府労災保険)からは、慰謝料や、会社が負う損害賠償金は出ません。

この記事では、保険代理店として建設業の労災の備えに携わってきた立場から、建設業の労災リスク、元請と下請の責任、労災上乗せ保険の補償と選び方を、公的な統計と裁判例をもとに説明します。

この記事のポイント
  • 建設業は死亡災害が業種別で最も多く、原因の4割以上が墜落・転落です。
  • 元請は、自社の従業員だけでなく、現場で働く下請の作業員の安全にも責任を負うことがあります。
  • 労災上乗せ保険は、従業員への上乗せの補償(法定外補償)と、会社への損害賠償(使用者賠償責任)に備える保険です。
  • 経営事項審査(経審)では、条件を満たす法定外労災に加入すると加点の対象になります。
目次

建設業の労災リスク 死亡災害は業種別で最も多い

死亡災害の約3割が建設業

厚生労働省の統計では、令和7年に仕事中の事故で亡くなった人は700人で、そのうち建設業は214人でした。業種別で最も多く、全体の約3割を占めます。

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項目全産業建設業
死亡者数(令和7年)700人214人(約31%)
休業4日以上の死傷者数(令和7年)135,333人13,437人

出典:厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」

建設業の就業者は483万人(令和5年)で、全産業の就業者の7.2%です。就業者の割合に比べて、死亡災害の割合が大きいことがわかります。

出典:国土交通省「改正建設業法について」(令和6年12月)

死亡災害の原因で最も多いのは墜落・転落

令和7年の建設業の死亡災害を事故の型別に見ると、次のとおりです。

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事故の型死亡者数(令和7年)
墜落・転落91人(約43%)
はさまれ・巻き込まれ23人
崩壊・倒壊22人
激突され14人
交通事故(道路)14人

出典:厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」別表3

足場や屋根、はしごからの墜落・転落が、建設業の死亡災害の4割以上を占めています。

熱中症の死亡も建設業が最も多い

2025年の職場の熱中症による死傷者は1,803人で、統計を取り始めてから最も多くなりました。建設業は292人で、亡くなった19人のうち5人が建設業でした。2021年からの5年間では、熱中症で亡くなった131人のうち52人が建設業です。

出典:厚生労働省「令和7年『職場における熱中症による死傷災害の発生状況』(確定値)」

2025年6月からは、熱中症のおそれがある作業について、報告体制の整備と、悪化を防ぐ手順の作成・周知が事業者の義務になりました。くわしくは熱中症対策の義務化で説明しています。

長時間労働と過労による労災

建設業にも、2024年4月から時間外労働の上限(原則として月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間など)が適用されています。

令和7年度に脳・心臓の病気で労災を請求した件数は、建設業が164件で業種別3位、労災と認められた件数も21件で3位でした。

出典:厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』」

役員であっても、実態として労働者と同じように働いていれば、労災と認められることがあります。くわしくは役員の労災で説明しています。

高齢化と人手不足

建設業の就業者は、55歳以上が36.6%、29歳以下が11.6%です(令和5年)。高齢の作業員が現場を支えるほど、転倒や熱中症、脳・心臓の病気のリスクは高まります。

出典:国土交通省「改正建設業法について」(令和6年12月)

元請と下請の責任 会社が負う安全配慮義務

安全配慮義務とは

会社には、労働契約法第5条にもとづき、従業員が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)があります。

労働契約法第5条(労働者の安全への配慮) 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

この義務に違反したと判断されると、会社は政府労災保険とは別に、従業員や遺族から損害賠償を求められます。

元請は下請の作業員にも責任を負うことがある

建設現場では、元請と下請の会社の作業員が同じ現場で働きます。労働安全衛生法では、元方事業者や特定元方事業者に、現場全体の安全のための措置が求められています(第29条〜第31条)。

裁判でも、元請が下請の作業員に対して安全配慮義務を負うと判断された例があります。最高裁は、下請の作業員が元請の設備や工具を使い、元請の指揮監督を受けて働いていた事案で、元請の安全配慮義務を認めました(最高裁 平成3年4月11日判決)。

元請は、自社の従業員だけでなく、現場で働く下請の作業員の事故でも、損害賠償を求められることがあります。

損害賠償の金額

重い後遺障害や死亡の事故では、損害賠償が1億円を超えることがあります。逸失利益(事故がなければ将来得られたはずの収入)や慰謝料は、政府労災保険からは出ないか、一部しか埋まりません。賠償額の考え方と試算は労災上乗せ保険とはで説明しています。

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政府労災保険だけでは足りない理由

政府労災保険は、仕事中や通勤中のケガ・病気について、法律で決まった範囲の給付を行う制度です。会社が負う損害賠償まで肩代わりするものではありません。

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項目政府労災保険労災上乗せ保険で備えられるもの(一般的な例)
治療費療養(補償)等給付で原則として自己負担なし入院・通院の補償を上乗せ
休業中の収入休業4日目から、給付基礎日額の60%+休業特別支給金20%休業の補償を上乗せ
後遺障害障害等級に応じて年金(1〜7級)または一時金(8〜14級)等級に応じた補償金を上乗せ
死亡遺族(補償)等年金・一時金、葬祭料等死亡の補償金を上乗せ
慰謝料出ない使用者賠償責任で、会社が払う賠償に備える
弁護士費用など出ない使用者賠償責任で備える

出典:厚生労働省「労災保険給付の概要」(令和8年7月1日現在)

労災上乗せ保険の2つの補償

労災上乗せ保険は、一般的に次の2つの補償で構成されます。補償の内容は商品や契約によって違います。

法定外補償 政府労災保険の上乗せ

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補償内容
死亡補償業務上の事故や通勤中の事故で亡くなった場合に、あらかじめ決めた保険金が支払われる
後遺障害補償後遺障害が残った場合に、障害の程度(等級)に応じて保険金が支払われる
入院・通院補償入院・通院の日数に応じて保険金が支払われる(支払いの日数に上限がある)
休業補償ケガで働けない期間の収入の減少を補う
天災危険補償通常は対象外になることが多い、地震・噴火・津波による死傷も補償する

使用者賠償責任 高額な損害賠償から会社を守る

業務中の事故で、会社(場合によっては役員)が従業員や遺族に法律上の損害賠償責任を負った場合に、賠償金と弁護士費用などの争訟の費用を補償します。会社が負う損害賠償額から、政府労災保険の給付などを差し引いた額をもとに支払われるのが一般的です。

支払限度額は商品によって違います。当社では、重い後遺障害や死亡の事故で賠償が1億円を超えることもあるため、支払限度額が十分かを確認していただくようお伝えしています。

下請の作業員や一人親方も対象にできる

建設業の労災上乗せ保険では、自社の従業員に加えて、下請の作業員や一人親方を補償の対象に含める契約ができます。完成工事高をもとに保険料を決める方式では、現場ごとの作業員の名簿がいらない商品が多くあります。

一人親方は元請の会社の政府労災保険の対象外のため、自分で政府労災保険に特別加入するか、民間の業務災害補償保険を契約する必要があります。

建設業が労災上乗せ保険に入る経営上のメリット

経営事項審査(経審)で加点の対象になる

公共工事の入札に参加するときに受ける経営事項審査では、法定外労働災害補償制度に加入していることが、社会性等(W1)の評価で15点の加点の対象になります。

加点の対象になるのは、次の条件を満たす契約です。

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要件内容
対象者自社の職員と、下請の職員の全員
対象の災害業務災害と通勤災害
補償の範囲死亡と、障害等級1〜7級の災害のすべて
対象の工事共同企業体と海外工事を除くすべての工事
保険期間審査基準日が保険期間に入っていること

記名式や人数の上限がある契約は、一般的に対象になりません。出典:愛知県「保険会社との法定外労働災害補償契約の確認について」、建設業情報管理センター「法定外労働災害補償制度」

元請から加入を求められる

大手のゼネコンやハウスメーカーは、下請の現場で重大な事故が起きると、元請も安全配慮義務を問われることがあるため、下請に労災上乗せ保険への加入を求めることがあります。加入していないと、現場に入れない、取引先から敬遠されるといった不利益につながることがあります。

人材の確保と定着に役立つ

建設業は若い人の確保が課題です。労災上乗せ保険には、業務外の病気やケガまで補償を広げる特約もあり、福利厚生として伝えることで、採用や定着に役立てる使い方もあります。

建設業で使える労災の予防のポイント

保険は事故が起きたあとのお金の備えです。事故を減らす取り組みとあわせて考えることが大切です。

  • 足場・開口部・屋根の墜落防止の設備と、墜落制止用器具の使用を確認する
  • 暑い時期は、WBGT(暑さ指数)を確認し、休憩・水分補給・報告の仕組みを決めておく
  • 勤怠を記録し、月の残業が多い人(役員を含む)の健康状態を確認する
  • 下請を含めた朝礼・危険予知(KY)活動で、その日の危険を共有する
  • 事故が起きたときの連絡先と手順を、現場に掲示しておく

よくある質問

政府労災保険があれば、労災上乗せ保険はいりませんか?

政府労災保険は、慰謝料や会社が負う損害賠償、弁護士費用を補償しません。重い後遺障害や死亡の事故では、損害賠償が1億円を超えることもあり、政府労災保険の給付を差し引いても、数千万円規模の金額が会社の負担として残ることがあります。

元請が労災上乗せ保険に入っていれば、下請は入らなくてもよいですか?

元請の契約が「現場で働く下請の作業員まで補償する」内容か、「元請の従業員だけ」かで変わります。元請の契約が下請を含んでいても、下請の会社自身が負う損害賠償には備えられないことがあるため、自社の契約も確認してください。下請の会社も、条件を満たせば経審の加点の対象になります。

一人親方でも労災上乗せ保険に入れますか?

入れます。一人親方は元請の会社の政府労災保険の対象外のため、政府労災保険に特別加入するか、民間の業務災害補償保険を契約します。現場によっては、特別加入と上乗せ保険の両方を求められることがあります。

上乗せ保険の保険金は、会社と従業員本人のどちらが受け取りますか?

契約によって違います。会社が受け取って補償規程にもとづき従業員や遺族に渡す形と、本人が直接受け取る形があります。社内の補償規程で受け取り方を決めておくと、トラブルを防げます。

労災保険を使うと、政府労災保険の保険料は上がりますか?

一定の規模以上の事業では、過去の労災の発生状況に応じて保険料率が増減する「メリット制」があります。民間の労災上乗せ保険から保険金を受け取っても、メリット制には影響しません。保険料が上がることを気にして労災を報告しないのは「労災かくし」で、労働安全衛生法違反として50万円以下の罰金の対象になります。

まとめ 建設業向けの労災上乗せ保険と賠償リスク

  • 建設業は死亡災害が業種別で最も多く、原因の4割以上が墜落・転落です。熱中症の死亡も建設業が最も多くなっています。
  • 元請は、下請の作業員の事故でも安全配慮義務を問われることがあります。
  • 政府労災保険では、慰謝料や会社が負う損害賠償、弁護士費用は出ません。
  • 労災上乗せ保険は、法定外補償と使用者賠償責任の2つで、従業員と会社の両方を守ります。
  • 経審の加点や元請からの要請など、受注の面でもメリットがあります。

まずは今の契約で、対象者(下請・一人親方を含むか)、死亡・後遺障害の補償額、使用者賠償責任の支払限度額が足りているかを確認してみてください。

代理店の現場から(監修者コメント)

横田 正則 株式会社キューブコンサルティング 代表取締役

当社で扱った建設業のお客さまの事故では、足場や高所作業車からの転落が目立ちます。中層階の足場から作業員が転落し、長い入院とリハビリが必要になった事故では、治療費と休業は元請の政府労災保険でまかない、会社が入っていた上乗せの補償からも約300万円が支払われました。足場の資材をトラックに積み込むときに足元へ落として骨折する事故も、毎年のように起きています。建設業では、重い事故のときに備える金額だけでなく、下請の作業員まで補償の対象に含めているかが、いざというときの差になります。契約の対象者の範囲を、一度確認してみてください。

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この記事の監修者

横田 正則

株式会社キューブコンサルティング 代表取締役

損害保険トータルプランナーAFP宅地建物取引士相続診断士一種証券外務員コンクリート技士

保険代理店「ほけんの王様」を15年以上運営し、16社以上の保険会社の商品を取り扱う。マンション管理組合の保険をはじめ、中小企業の労災・賠償への備えについて、経営者からの相談に数多く対応してきた。AFP・宅地建物取引士・相続診断士として、保険と不動産・相続をあわせて考える提案を行っている。

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運営:株式会社キューブコンサルティング(保険代理店「ほけんの王様」) 会社案内 勧誘方針

参考資料

この記事は一般的な情報の提供を目的としており、特定の保険商品の勧誘を目的とするものではありません。補償の内容は商品や契約内容によって異なります。法律や社内規程の判断が必要な場合は、弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

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